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労災認定の判断基準―「請負か雇用か」の線引き

建設業の現場では、「請負契約」で働いている一人親方や個人事業主が多く存在します。しかし、万が一の労災事故発生時に、「実質的に雇用関係があったのではないか」として労災認定が争われるケースが少なくありません。今回は、労災認定の際に焦点となる「請負か雇用か」の判断基準について、社会保険労務士の視点から詳しく解説します。


1.「労働者性」が労災認定のカギを握る

労災保険法における「労働者」とは、名称や契約形態に関わらず、**「事業主の指揮命令下で労務を提供し、報酬を得ている者」**を指します。つまり、請負契約や業務委託契約を結んでいたとしても、実態として雇用関係に近い働き方をしていれば、労災の対象となる可能性があります。

労災認定の可否を判断する際、労働基準監督署は「契約書の形式」よりも「実際の労務提供の実態」を重視します。形式的には請負であっても、日々の現場で指揮命令を受けていた場合、実質的に雇用関係と認定されることがあります。


2.請負と雇用の違い―契約上の位置づけ

請負契約とは、成果物の完成を目的とする契約であり、請負人は仕事の完成に責任を負います。対して、雇用契約は労働そのものの提供を目的としており、使用者の指揮命令に従って労務を行う点が特徴です。

建設業においては、「大工」「とび職」「配管工」などが一人親方として請負契約を結ぶことが多く見られます。しかし、現場で「作業内容・時間・順序・方法」が元請や職長から細かく指示されている場合、形式上は請負でも、実質的に雇用とみなされるリスクがあります。


3.労働者性を判断する6つのポイント

労災認定の判断においては、労働基準法上の「労働者性」に関する通達(昭和60年基発第150号)が参考にされます。以下の6項目が主な判断要素です。

指揮監督関係の有無
業務遂行にあたり、元請や現場監督の指示に従わなければならない状態にあったか。自らの裁量で作業手順を決めていれば請負の可能性が高く、指揮下で働いていれば雇用とみなされやすいです。

労務提供の代替性
他人に仕事を代行させられるか。代替が自由であれば請負、本人でなければならない場合は雇用に近いとされます。

報酬の労務対価性
出来高や時間給で支払われている場合は雇用的要素が強く、成果物単位での報酬なら請負に近くなります。

機材・資材の負担
使用する工具や材料を元請が用意している場合は雇用関係が推認されやすく、自身で準備・負担していれば独立性が高いとされます。

専属性の程度
特定の元請に継続的・専属的に働いている場合、使用従属性が強いとみなされる傾向があります。

社会的評価・事業者性
自ら請求書を発行しているか、確定申告をしているか、事業として対価を得ているかといった点も判断材料です。

これらを総合的に勘案して、「労働者性の有無」を判断します。


4.建設業で多いグレーゾーンの実例

建設現場では、形式上「一人親方」として請負契約を交わしていても、実態は元請の社員と同様に勤務しているケースがあります。

たとえば、
・作業開始・終了時間が指定され、現場監督の指示で動いている
・材料や工具はすべて元請会社が支給している
・日当制で支払われている
このような場合は、労災発生時に「実質的には雇用」と判断される可能性が極めて高いです。

実際、私が相談を受けたケースでも、名目上は「請負」だったものの、現場管理者の指示通りに作業していた大工が事故に遭い、結果的に「労働者性あり」として労災認定を受けた事例がありました。契約書よりも現場実態が重視されることを改めて実感した案件でした。


5.「偽装請負」とみなされるリスク

労災認定の場面で特に問題となるのが「偽装請負」です。形式的に請負契約を装っていても、実態が雇用関係であれば、労働基準法違反や労働者派遣法違反に問われる可能性があります。

元請業者が「労務コストを抑えるため」に請負形式をとることがありますが、万が一労災事故が発生した際には、補償責任を問われるリスクが非常に高まります。また、社会保険未加入である場合は、行政指導の対象となることもあります。


6.トラブル防止のための実務対応

労災トラブルを未然に防ぐためには、次のような実務対応が有効です。

契約書の整備
請負契約書には、業務の範囲・成果物の内容・報酬の支払方法・責任分担を明確に記載します。現場での指揮命令を受けない旨を明示することも有効です。

現場運用の徹底
元請側が指示・監督を行う場合は、請負ではなく「雇用」または「派遣」としての整理が必要です。現場管理者に「請負契約者への指揮命令をしない」という意識を持たせることが重要です。

特別加入の活用
一人親方であっても、労災保険の特別加入制度を利用することで、事故時の補償を確保できます。建設業では現場入場時に特別加入が必須条件となるケースも多いため、早めの加入をお勧めします。

労務管理の見直し
元請企業は、現場で働く個人事業主の実態を定期的に点検し、労働者性が強い場合には契約形態の見直しを行うべきです。


7.社労士としての見解

労働者性の判断は、法律上も非常に繊細な領域です。現場の実態を正確に把握せずに「請負だから労災対象外」と判断してしまうと、後に重大なトラブルを招くおそれがあります。特に建設現場では、日常的に指示命令が行われやすく、契約書の文言だけでは線引きが難しいことが多いです。

私が関与した元請企業の中には、「請負で契約していたが、実態は雇用に近い」と判断して、早期に契約見直しと保険加入を進めたことで、後のトラブルを回避できた事例もあります。行政調査の現場では、社労士として「どのような管理が適法であるか」を説明し、書面整備の支援を行うことが不可欠です。


8.まとめ

「請負か雇用か」の線引きは、単なる契約上の問題ではなく、労災補償・社会保険・法的責任に直結します。現場での実態がどうであるかを冷静に見極め、形式と実態の整合性を保つことが、事業者・一人親方双方のリスクを最小限にする鍵です。


 

執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)

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