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建設現場で働く一人親方の方々の中には、「現場に行く途中で事故に遭った場合、労災で補償されるのか?」という疑問を持つ方が多くいらっしゃいます。労災保険と聞くと「現場でケガをしたとき」というイメージが強いですが、実際には「通勤中の災害」も補償の対象となる場合があります。この記事では、一人親方特別加入者における「通勤災害」の範囲と注意点について、建設業の実情に即して解説します。
通勤災害とは、就業に関して合理的な経路および方法による通勤の途中で起きた負傷、疾病、障害または死亡を指します。労働者においては、労働基準法および労災保険法に基づき、通常の通勤中の事故でも一定の条件を満たせば補償が受けられます。
一方、一人親方の場合は、労働者ではなく「個人事業主」に該当します。そのため原則としては労災保険の対象外ですが、「特別加入制度」を利用することで、通勤災害も含めた労災補償の対象となることが可能です。つまり、特別加入していれば、現場への移動中に発生した事故も労災補償を受けられる場合があるのです。
一人親方の通勤とは、原則として「住居と就業の場所との間の往復」を指します。建設業では、現場が日々異なるケースも多く、「本日の現場への移動」が通勤に該当します。また、元請や取引先との打ち合わせのための移動も、業務の一環とみなされることがあります。
ただし、建設業の一人親方は自家用車や軽トラックで資材を運搬することも多く、この場合は「業務中の移動」と「通勤中の移動」の線引きが難しいケースが生じます。労災補償上は、「就業前後の合理的な経路による移動」であれば通勤災害として扱われることが多い一方、明確に業務としての運搬や搬入を伴う場合は「業務災害」として判断されることもあります。
通勤災害として認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。
合理的な経路および方法による移動であること
通勤の経路は、通常利用する道路や交通手段を意味します。大幅な寄り道や危険な経路を選んだ場合には、「合理的な経路」とは認められません。
就業に関連する移動であること
建設現場への移動、または作業終了後の帰宅途中であることが原則です。途中で私用のために立ち寄った場合(買い物や知人宅への訪問など)は、その間の行為中に発生した事故は労災の対象外となります。
中断や逸脱がないこと
通勤中に私的な目的で経路を外れたり、移動を長時間中断した場合、その間に発生した事故は原則として補償の対象外です。ただし、その後、再び合理的経路に戻った後の移動中であれば、補償対象に復帰することがあります。
【認められる例】
・自宅から現場へ向かう途中、信号待ち中に追突され負傷した
・現場を出て自宅に戻る途中、交差点で転倒してケガをした
・元請との打ち合わせのため、直接現場ではなく事務所に向かう途中の交通事故
【認められない例】
・通勤途中にパチンコ店や飲食店に立ち寄った際の事故
・知人を送迎するために経路を外れて事故に遭った場合
・飲酒後に自宅へ向かう途中の事故(合理的な経路と認められない)
このように、「業務や通勤に直接関係しない行動」が含まれる場合は、通勤災害とはみなされません。
一人親方特別加入者が通勤災害に遭った場合、次のような補償を受けることが可能です。
療養補償給付(治療費全額の給付)
病院や整骨院などでの治療費が全額支給されます。健康保険とは異なり、自己負担はありません。
休業補償給付
治療のために就業できない期間が4日以上続いた場合、給付基礎日額の80%(休業補償給付60%+特別支給金20%)が支給されます。
障害補償給付・遺族補償給付
後遺障害が残った場合や、死亡事故の場合には、等級に応じた給付金が支払われます。
筆者が実際に相談を受けた事例の中には、現場へ向かう途中に起きた事故で「通勤災害に該当するか分からない」というケースが少なくありません。
たとえば、作業開始前に資材を積み込んだ状態で移動中に事故が発生した場合、「通勤」か「業務」かの判断が分かれます。このような場合、労働基準監督署では作業実態や移動目的を確認し、通勤災害または業務災害のいずれかとして認定します。
社労士として感じるのは、一人親方の方々が「労災の範囲」を十分に理解していないまま加入しているケースが多いという点です。特別加入をしていても、申請書類の不備や経路の説明不足により、補償が受けられないことがあります。
したがって、事故発生時には、どのような経路でどのような目的で移動していたのかを具体的に記録しておくことが重要です。ドライブレコーダーやスマートフォンの位置情報なども、証拠として有効になります。
一人親方の通勤災害は、「働き方の自由度が高い」ことと裏腹に、補償範囲の判断が難しい分野です。特別加入制度を活用していても、自己判断で申請を怠ると補償を受けられない可能性があります。
そのため、事故が起きた際には、まず加入している労働保険事務組合または社労士に相談し、状況を正確に伝えることが肝要です。
また、日頃から通勤経路や現場情報を整理し、業務日報などに簡単なメモを残しておくことで、認定の際に有利に働くこともあります。
建設業の現場では移動の頻度が高く、リスクも多いからこそ、通勤災害の補償内容を理解しておくことが、自身と家族を守る第一歩です。
執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)
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