〒322-0039 栃木県鹿沼市東末広町1940-12 シマダヤビル3階
建設現場で働く一人親方にとって、日々の作業には常に危険が伴います。高所作業、重量物の運搬、電動工具の使用など、少しの不注意が大きな事故につながる可能性があります。しかし、労働者ではない一人親方は原則として「労災保険」の対象外です。
そのため、現場でケガをした場合に補償が受けられず、治療費や休業中の生活費をすべて自己負担せざるを得ないケースも少なくありません。こうしたリスクを補う仕組みが「労災保険の特別加入制度」です。
今回は、建設業で働く一人親方の方向けに、特別加入制度の仕組み・加入条件・補償内容をわかりやすく整理します。
建設業における「一人親方」とは、他の労働者を雇わず、自らの技能と責任で仕事を請け負う個人事業主を指します。
大工、左官、塗装工、電気工事士、配管工、解体業など、職種は多岐にわたります。
元請業者から請負契約で工事を受注し、日当や出来高で報酬を得る点が特徴で、雇用契約を結んでいる「労働者」とは異なります。
労働基準法上の労災保険は、あくまで「使用者に雇われる労働者」を保護する制度のため、一人親方は原則として加入できません。その結果、仕事中に墜落・転倒・機械による負傷などが起きても、労災補償を受けられないという問題がありました。
この問題を解決するために設けられたのが「労災保険の特別加入制度」です。
労災保険法第33条に基づき、本来労働者でない人でも、労働災害のリスクが高い業務に従事している場合に、労災保険に特別に加入できる仕組みです。
建設業においては、現場で実際に作業を行う一人親方が対象です。たとえば、個人で大工仕事を請け負う職人や、電気・内装・外構などを請け負う個人事業主などが該当します。
これにより、万が一現場でケガをした場合も、通常の労働者と同様に療養補償や休業補償を受けることが可能になります。
建設業の一人親方が特別加入するためには、個人で直接労働局や労基署に申請することはできません。必ず「労働保険事務組合」を通じて加入手続きを行う必要があります。
労働保険事務組合とは、中小企業や一人親方の代わりに労働保険(労災・雇用保険)の事務を行う団体で、厚生労働大臣の認可を受けています。多くの場合、建設業組合や職人団体がこの事務組合を運営しています。
加入の流れは以下の通りです。
所属できる事務組合を探す(地域の建設業組合など)
必要書類(申込書、契約書、健康診断書など)を提出
給付基礎日額を選択し、保険料を納付
労働局の承認を経て加入成立
加入後は「労災番号」が発行され、業務中・通勤中の災害が労災保険の対象となります。
建設業の一人親方が特別加入できる条件は以下の通りです。
自分自身が現場作業に従事していること(管理職のみは不可)
常時使用する労働者がいないこと(臨時の手伝いは可)
所属する事務組合が労働局から特別加入の承認を受けていること
提出書類の例は以下の通りです。
特別加入申請書
請負契約書や見積書など、実際の仕事を証明する書類
健康診断書(高所作業や粉じん作業従事者は必須)
事務組合への加入申込書
健康診断書は加入時に必要であり、更新時にも一定期間ごとに再提出が求められる場合があります。特に建設業では、墜落や転落の危険があるため、健康状態の確認が重要視されています。
特別加入の保険料は、本人が選択する「給付基礎日額」に基づいて算出されます。
建設業の一人親方の場合、3,500円から25,000円までの範囲で選択可能です。
例えば日額12,000円を選んだ場合、年間保険料の目安は約4〜5万円前後となります。
給付基礎日額が高いほど、災害時の補償額も大きくなりますが、当然ながら保険料も上がります。
「補償額の安心」と「負担可能な保険料」とのバランスを考慮し、現実的な金額を選ぶことが大切です。
特別加入した一人親方が労災に遭った場合、次のような補償を受けられます。
療養補償給付:治療費全額(自己負担なし)
休業補償給付:療養のために働けない期間、給付基礎日額の80%
障害補償給付:後遺障害が残った場合に等級に応じた一時金または年金
遺族補償給付:死亡時に遺族へ支給
葬祭料:葬儀費用として一定額
また、業務中だけでなく通勤途上の事故も補償対象となります。
特別支給金も支給されるため、民間保険に比べて補償範囲が広く、安心感が高い制度です。
実務上よく見られるトラブルとして、「年度更新の手続きを忘れて補償を受けられなかった」というケースがあります。特別加入は1年ごとの更新制のため、保険料を滞納すると自動的に脱退扱いとなり、事故発生時に補償が受けられなくなります。
また、形式上は一人親方でも、実態として元請の指揮命令を受けている場合、監督署が「労働者性がある」と判断し、特別加入ではなく通常の労災として扱われることもあります。
このため、請負契約の内容や作業記録、報酬の支払い方法など、日常から証拠を整理しておくことが望まれます。
さらに、特別加入は本人のみが対象であり、同じ現場で働く応援職人や家族従事者は別途加入が必要です。家族全員で作業している場合は、それぞれ個別に手続きを行う必要があります。
建設現場を多くサポートしてきた経験上、加入時よりも「更新・管理」の方がトラブルが多いと感じます。
例えば、年度更新時に請負契約が一時的に切れていたり、健康診断書の提出が遅れたりすることで、補償が無効になるケースが見られます。
特別加入は「加入していること」が目的ではなく、「いざという時に補償を受けられる状態を維持すること」が大切です。
そのため、労働保険事務組合や社会保険労務士と定期的に連携し、加入状況を確認・更新することをおすすめします。現場での安全管理とあわせて、制度面での備えも万全に整えておくことが、安心して働く第一歩です。
建設業の一人親方でも、特別加入制度を活用すれば労災保険に加入できます。
加入は労働保険事務組合を通じて行い、保険料や補償内容は選択した基礎日額によって異なります。
現場での事故や災害は誰にでも起こり得るものです。特別加入制度を正しく理解し、更新を怠らずに運用することで、自身と家族の生活を守ることができます。
執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)
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