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元請・下請間の安全配慮義務と一人親方の立場

建設現場では、元請業者・下請業者・一人親方が混在して作業を行うケースが多く、安全管理体制の在り方が常に問われています。特に「安全配慮義務」は、雇用関係に基づく責任とされる一方で、実際の現場では一人親方も同様の危険環境で働くため、その保護の在り方が曖昧になりがちです。本稿では、元請・下請間の安全配慮義務の法的枠組みと、一人親方の立場・リスクについて整理し、社労士の視点から実務上の対応策を解説します。


1. 安全配慮義務の基本概念

安全配慮義務とは、労働契約法第5条に基づき、使用者が労働者に対して「生命・身体・健康を危険から保護するよう配慮する義務」を指します。これは単なる道義的責任ではなく、法的義務として位置付けられています。つまり、労働者が業務により災害を受けた場合、企業側がその防止のために十分な注意を尽くしていなかったと判断されれば、安全配慮義務違反として損害賠償責任を負うことになります。

しかし、一人親方は自らが事業主であり、形式的には「労働者」ではありません。そのため、労働契約に基づく安全配慮義務の直接的対象ではないのが原則です。ここに、現場実務上の大きなギャップが生じています。


2. 元請・下請構造と安全管理責任の関係

建設現場では、元請業者が工事全体の管理を行い、その一部を下請業者や一人親方に委託します。労働安全衛生法第15条や第31条では、元請業者に対して「統括安全衛生管理義務」が課せられています。これは、現場で複数の事業者が作業する場合に、災害防止のために必要な調整・指導を行う義務です。

つまり、たとえ一人親方であっても、同一現場で作業を行う以上、元請業者には一定の安全配慮・指導責任が生じます。もっとも、これは「民法上の契約責任」ではなく「公法上の安全衛生管理義務」であり、範囲や程度には限界があります。

具体的には、

  • 作業間の干渉防止措置(例えば重機作業と人力作業の調整)

  • 安全帯やヘルメットなどの着用指導

  • 安全教育やKY(危険予知)活動の実施
    など、全体管理者としての統括的配慮が求められます。


3. 一人親方に対する元請の責任はどこまで及ぶか

一人親方は請負契約に基づいて作業を行う独立事業者であり、原則として労働基準法や労働契約法の保護対象外です。しかし、判例上は元請業者が「事実上の指揮命令関係」を有する場合、実質的に使用者とみなされるケースも存在します。

例えば、

  • 元請が作業内容・手順を具体的に指示していた

  • 元請の管理者が安全装備や作業開始・終了を直接指示していた

  • 一人親方が実質的に元請の道具・材料を使い、報酬も時間単価で支払われていた

このような実態があれば、形式上は請負契約でも、労働者性が認定され、安全配慮義務違反が問われる可能性があります。

実際に建設業界では、「名ばかり一人親方」として、労働者的な実態を持つケースが多く、裁判では一人親方側が損害賠償請求を行い、元請の責任が認められる例もあります。


4. 一人親方自身が取るべき安全対策

一人親方は法的に独立した事業主であり、自身の安全管理も自己責任の範囲に含まれます。したがって、元請に依存しすぎず、自らの安全確保体制を整えることが重要です。

代表的な対策として、

  • 特別加入制度による労災保険への加入

  • 労働安全衛生教育の受講

  • 定期的な健康診断の実施(建設業労働災害防止協会などが推奨)

  • 安全帯・保護具の自主点検と管理

  • 現場ごとの危険箇所の事前確認

これらを怠ると、災害発生時に十分な補償を受けられず、元請側にも「自己管理が不十分」として責任転嫁される恐れがあります。

社労士として現場の相談を受ける中で、一人親方が「自分は保険に入っているから大丈夫」と誤解しているケースを多く見てきました。しかし、特別加入制度は“自ら申請して初めて補償が適用される制度”であり、元請側が自動的に手配してくれるものではありません。加入の有無や更新時期を常に確認することが肝要です。


5. 元請側が講ずべき体制整備

元請業者としては、単に契約上の責任を果たすだけでなく、現場全体の安全文化を醸成することが求められます。特に、下請や一人親方を含む「混在作業現場」では、形式よりも実態に即した管理が不可欠です。

実務的には以下の取り組みが効果的です。

  • 全作業者を対象とした統一安全教育の実施

  • 入場時の安全衛生書類(特別加入証明書、健康診断結果)の確認

  • 作業手順書・危険予知活動の共有

  • 定期巡視・ヒヤリハット報告の収集体制構築

  • 安全協議会を通じた情報共有

これらは法定義務を超える取組みではありますが、事故発生時に「十分な管理体制があった」と評価されるかどうかで、元請側の法的リスクが大きく変わります。


6. 社労士としての視点とアドバイス

建設業の現場では、法令上の線引きよりも、実態として「誰が安全を守るのか」が常に問題となります。社労士として感じるのは、「安全配慮義務」は単に法的責任ではなく、信頼関係の基盤でもあるということです。

一人親方に対しても、安全ミーティングへの参加を促し、情報を共有する姿勢を示すことで、元請・下請・個人事業主が一体となった安全文化が生まれます。形式的な「契約区分」にこだわらず、共に命を守るパートナーとしての意識を持つことが、結果的に事故防止・企業の信用維持につながります。


まとめ

建設業の元請・下請間の安全配慮義務は、単なる法律論ではなく、現場全体の安全文化の礎です。一人親方も「自らの安全は自ら守る」という意識を持ちながら、特別加入制度を活用し、元請側も協働の視点で安全管理を行うことが、真に持続可能な現場運営につながります。


 

執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)

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