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現場での安全衛生教育は誰が担うべきか?

建設業において、現場の安全管理は企業経営そのものに直結する重要課題である。墜落・転落事故や挟まれ事故など、建設現場では依然として重大災害が多発しており、その多くは「教育不足」「指導体制の不備」に起因している。では、現場における安全衛生教育は、具体的に誰が担うべきものなのか。ここでは、法的な枠組みと実務上の考え方を整理し、社労士としての見解も交えて解説する。


1. 安全衛生教育の法的根拠と目的

労働安全衛生法第59条では、事業者に対して労働者への安全衛生教育を実施する義務を定めている。とりわけ建設業では、作業内容や現場ごとの危険性が大きく異なるため、法定教育を超えた自主的な教育の実施が不可欠だ。教育の目的は単なる「知識の伝達」ではなく、作業者一人ひとりが自ら危険を察知し、安全な行動を取るための意識を形成することにある。

この教育の担い手を明確にしないまま現場を稼働させると、安全配慮義務を果たしていないと判断されるおそれもある。したがって、「誰が、どの範囲を、どのように指導するか」を体系的に設計することが、経営リスクの最小化にもつながる。


2. 元請事業者が担うべき責任範囲

建設現場では、元請が全体の安全衛生管理を統括する立場にある。労働安全衛生法第15条及び労働安全衛生法施行令第3条により、元請は「統括安全衛生責任者」を選任し、下請を含む現場全体の安全衛生活動を管理する義務を負う。

統括安全衛生責任者は、現場における安全管理体制の中核であり、各職長や下請責任者を通じて安全教育の方向性を定める立場にある。元請が行う教育の例としては、以下が挙げられる。

  • 新規入場者教育(現場ルール・危険箇所の周知)

  • 特別教育(足場、酸素欠乏危険作業、高所作業車など)

  • 定期的な安全衛生打合会やKY(危険予知)活動の実施

  • 下請・一人親方への教育資料提供と参加要請

元請が形式的な書類整備にとどまることなく、実質的に教育を主導することが安全文化の定着には欠かせない。


3. 下請・職長が担う現場レベルの教育

一方で、日々の作業指導や現場での具体的な危険予知活動は、職長や下請責任者が中心となる。職長は労働安全衛生法第60条に基づく「職長教育」を受けており、現場における安全衛生管理の実行者と位置づけられる。

現場では、元請が定めたルールや安全方針を職長が具体的な作業手順に落とし込み、作業員に対して朝礼・終礼時の指導やKY活動を行う。とりわけ短期工期や多重下請構造の現場では、職長の教育力が事故防止の鍵を握る。

また、職長が担う教育の質を高めるためには、元請側が「職長向け教育マニュアル」「ヒヤリハット事例集」などを整備し、共有する仕組みづくりが重要である。


4. 一人親方への教育はどう位置づけるか

建設業の現場では、一人親方として特別加入している作業者も多い。一人親方は労働者ではないため、労働安全衛生法の直接の適用対象外とされるが、元請が現場全体の安全を管理する立場である以上、一定の教育的配慮は必要である。

たとえば、新規入場時の安全教育については、労働基準監督署の通達(昭和47年基発602号)でも「一人親方等に対しても必要な安全衛生上の指導を行うことが望ましい」と示されている。

元請としては、一人親方にも他の下請作業員と同様に現場ルールや危険箇所の説明を行い、安全書類(入場者名簿、特別教育修了証コピー等)の確認を徹底することが求められる。


5. 教育体制を維持するための仕組みづくり

安全衛生教育は一度実施すれば終わりではなく、継続的な教育サイクルの構築が欠かせない。そのためには、以下のような仕組みを整備しておくと効果的である。

  • 年間安全衛生教育計画の作成

  • 教育実施記録・受講者リストの管理

  • 新規入場者教育のチェックリスト化

  • ヒヤリハット報告を活用した再教育の実施

  • 外国人技能実習生・特定技能者向けの母国語教育資料の整備

こうした記録が整備されていれば、監督署の調査対応だけでなく、事故発生時の法的責任回避にも役立つ。


6. 社労士の立場から見た教育体制整備の重要性

社労士として現場管理を支援する中で感じるのは、教育を「コスト」として捉える企業と「投資」として捉える企業の差である。前者では事故やトラブルが繰り返され、労災認定や請負契約トラブルにつながるケースが少なくない。一方、教育を定期的に実施している企業は、現場のコミュニケーションが活性化し、離職率も低下している傾向がある。

また、教育を実施する担当者が不明確な現場では、労働災害発生時に「指揮命令系統が不明」「安全衛生責任の所在が曖昧」とされ、元請・下請双方に不利益を及ぼすおそれがある。安全衛生教育は法令遵守のみならず、企業の信用力や入札評価にも影響する時代である。

社労士としては、就業規則・安全衛生規程といった社内ルールの整備と併せて、安全衛生教育計画書・実施記録のフォーマットを整える支援を行うことが重要だ。


7. 実務的な対応のポイント

  1. 教育責任者の明確化
     元請・下請・職長ごとに教育の担当範囲を定義する。

  2. 教育内容の標準化
     現場ごとに差が出ないよう、共通フォーマットを作成。

  3. 再教育の実施
     事故・ヒヤリハット発生時には、原因分析と再教育をセットで実施。

  4. 教育の見える化
     教育実施記録・受講証明を整理し、監督署調査にも対応可能な体制を。

  5. 専門家の関与
     社労士や安全衛生コンサルタントが客観的に教育体制を点検し、改善提案を行う。


まとめ

建設現場の安全衛生教育は、元請・下請・職長・一人親方のそれぞれが役割を持ち、連携して進める必要がある。法的責任を負うのは元請であるが、教育の実効性を高めるには、現場の実態に即した多層的な教育体制の構築が欠かせない。教育の担い手を明確にし、記録を残すことが、安全で持続可能な現場運営の基盤となる。


 

執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)

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