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特別労災に加入していても「安全配慮義務違反」で訴えられる可能性

建設現場では、一人親方を含め多くの作業従事者が日々危険と隣り合わせの作業を行っています。そのため、労災保険制度や特別加入制度によって万一の補償を確保することは極めて重要です。しかし、「特別労災に加入しているから、万が一事故が起きても責任は免れる」と考えるのは大きな誤りです。実際には、特別労災に加入していても「安全配慮義務違反」に基づく損害賠償責任を問われる可能性があり、元請・下請双方が法的リスクを負う場面が存在します。


1. 安全配慮義務とは何か

安全配慮義務とは、使用者や事業主が労働者や従事者の生命・身体の安全を確保するために必要な配慮を行う義務のことです。これは労働契約法第5条にも明記されており、労働者に限らず、建設現場のように多層的な請負構造の中でも、上位事業者(元請)が下位事業者や一人親方に対して一定の安全確保義務を負う場合があります。

判例でも、元請業者が一人親方に対して現場の安全管理上の配慮を怠った結果、事故が発生した場合には、安全配慮義務違反による損害賠償が認められた事例があります。つまり、「労働者ではないから関係ない」という理屈は通用しないのです。


2. 特別労災加入の仕組みと法的効果

一人親方が加入できる特別労災制度は、労働者災害補償保険法第33条の規定に基づく制度であり、通常の労働者ではない個人事業主でも、一定の条件下で労災保険の補償を受けられる仕組みです。

この制度に加入していれば、業務中や通勤途上での負傷・疾病・死亡に対して、療養補償給付や休業補償給付、遺族補償給付などが受けられます。つまり、公的補償としては十分に整っているように見えます。

しかし、この補償は「国の保険給付」であり、損害賠償責任を免除するものではありません。安全配慮義務違反に基づく民事上の責任は別次元の問題であり、労災の給付が行われても、被災者や遺族が元請を相手取って損害賠償請求を行うことが可能です。


3. 実際に起こり得る訴訟リスク

近年の建設業界では、元請と下請、一人親方との関係がますます複雑化しています。とくに現場全体の安全体制が不十分であった場合、事故発生後に「安全配慮義務違反」として訴訟に発展するケースが増加傾向にあります。

たとえば、高所作業中に墜落事故が起きたケースで、現場の足場の点検体制や安全帯の使用指導が徹底されていなかった場合、たとえ被災者が一人親方であっても、元請が安全管理上の注意を怠ったとして責任を問われることがあります。

また、特別労災の給付額には上限があり、逸失利益や慰謝料など、民事上の損害賠償額とは大きな差が生じることも多いのが実情です。その結果、遺族が追加の損害賠償を求めて訴訟を起こすケースも見受けられます。


4. 元請が取るべき実務対応

特別労災に加入している一人親方が現場に入る場合でも、元請企業としては次のような対応が不可欠です。

  1. 安全衛生管理計画の策定と周知
     現場ごとにリスクアセスメントを行い、具体的な安全対策を明文化します。一人親方にも安全教育を実施し、記録として残しておくことが重要です。

  2. 現場ルール・安全手順の徹底
     一人親方は「自己責任」で作業する立場とされがちですが、現場の統一ルールの中で行動してもらう必要があります。特に高所作業や重機周辺作業では、元請の管理下における安全指示が求められます。

  3. 労働保険事務組合との連携確認
     一人親方が加入している特別労災の有効期間や給付基礎日額を確認し、現場入場時に加入証明書を提示してもらうよう徹底します。

  4. 事故発生時の迅速な初動対応
     事故が起きた際には、被災者の救護・報告体制を明確にし、関係機関(労働基準監督署など)への報告漏れを防ぐこと。対応の遅れが二次的な責任を招くケースもあります。


5. 社労士としての見解

私が現場安全に関する相談を受ける中で感じるのは、「加入していれば安心」という誤解が依然として根強い点です。特別労災はあくまで“補償制度”であり、元請や事業者の法的責任を軽減するものではありません。むしろ、制度を理解し、補償と責任の線引きを明確にしたうえで、安全管理体制を整えることこそが本来のリスク回避策です。

また、一人親方の中には安全衛生教育を受ける機会が少ない方もおり、元請が主導して教育・指導を行うことが事故防止につながります。特に、近年は安全衛生法上の「指導・確認義務」を果たさなかった場合に、元請責任を問われる場面が増えています。社労士としては、契約書や安全管理協定書の整備を通じて、法的リスクの軽減を図る支援が有効です。


6. 今後の対応とリスクマネジメント

特別労災制度を活用することは、万一の備えとして有効です。しかしそれだけでは不十分であり、企業としての安全配慮義務を果たす体制整備が求められます。
今後の建設業界では、下請・一人親方を含めた「現場全体の安全文化づくり」が重要となります。具体的には、次のような仕組みが必要です。

  • 安全衛生責任者の明確化と現場巡視の記録

  • KY(危険予知)活動の定期実施

  • 下請・一人親方を含む合同安全大会の開催

  • 事故時の責任範囲を明確にする契約書条項の整備

これらを実践することで、法的責任の軽減だけでなく、現場の信頼性向上にもつながります。


7. まとめ

特別労災への加入は、事故発生時の経済的損失を軽減するための重要な手段ですが、それで「責任が免れる」わけではありません。元請や事業主には引き続き安全配慮義務が課されており、その義務を怠った場合には、民事訴訟による賠償請求を受ける可能性があります。

つまり、補償と責任は別問題であり、両輪で対策を講じる必要があるのです。特別労災の加入を“安心の証”とするためには、制度理解と安全管理体制の強化が不可欠だといえるでしょう。


 

執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)

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