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労災保険料控除の税務上の取り扱いについて

建設業の経営者にとって、労災保険料の支払いは避けて通れないコストの一つです。特に一人親方や中小規模の建設業者では、労災保険の「特別加入」制度を利用して自身や従業員を保護するケースが多く見られます。しかし、経理処理や税務申告の際に「労災保険料は経費になるのか」「控除対象として認められる範囲はどこまでか」という点について、正確に理解されていないことも少なくありません。今回は、建設業における労災保険料の税務上の扱いを整理し、実務上の注意点を社労士の視点から解説します。


1. 労災保険料の基本構造と負担区分

労災保険料は、原則として「全額事業主負担」とされています。雇用保険と異なり、労働者の給与から天引きして負担させることはできません。事業主が負担する労災保険料には、一般労働者分の保険料と、一人親方や中小事業主が加入する「特別加入分の保険料」があります。

建設業の場合、元請・下請の関係が複雑で、労災保険の加入形態もさまざまです。元請業者が一括して労災保険料を負担し、下請業者に按分請求することもあれば、一人親方が自身で労働保険事務組合を通じて保険料を納付するケースもあります。それぞれの支払い方法によって、経理上の処理方法や税務上の控除の取り扱いが異なってきます。


2. 経費算入できるのは「業務上必要な部分」

法人税法や所得税法の観点から見ると、労災保険料は「事業遂行上必要な費用」として原則、損金(経費)算入が可能です。ただし、個人事業主本人が特別加入している場合、その取り扱いには注意が必要です。

従業員分の労災保険料は、会社経費または個人事業の必要経費として全額計上できます。一方、事業主本人が特別加入している場合の保険料は「事業主自身のための保険」であるため、厳密には事業経費ではなく「事業主個人の支出」とみなされることがあります。とはいえ、建設業では現場に実際に入る一人親方も多く、その場合は「業務上の安全確保のための合理的支出」として必要経費に含める実務も一般的です。

税務署によって判断が異なるケースもあるため、申告時には保険料の明細や支払い証拠を明確に残し、「労務災害リスク対策としての必要経費」であることを説明できるようにしておくことが重要です。


3. 元請が負担した保険料の処理と下請との関係

建設現場では、元請業者が下請業者の労災保険料をまとめて納付し、後日請求書で下請に転嫁する形がよく見られます。この場合、元請側は一時的に立て替えた費用であり、実際の負担者は下請となるため、元請は経費として計上せず「立替金」として処理します。

一方、元請が下請分を負担し、請求しない場合には、その金額は「元請の経費」として処理できます。逆に、下請業者側から見れば、その分は「元請からの経済的利益の供与」として収益計上が求められる可能性もあるため、双方の処理整合性が非常に大切です。

社労士として現場で見てきた中でも、元請・下請間でこの処理をあいまいにしてしまい、税務調査で指摘を受けた事例がありました。特に一括有期事業(一括番号)での処理では、保険料負担区分を明確にし、書面でやり取りを残すことがトラブル回避につながります。


4. 特別加入保険料と個人事業主の税務処理

個人事業主の特別加入保険料は、所得税法上「事業所得の必要経費」として計上することが可能とされています。ただし、これが「労働保険料」として納付されたものに限られます。特別加入に付随して加入する「上乗せ補償制度」や「民間傷害保険」などは、純粋な労災保険料とは別扱いです。

これら民間保険の保険料は「業務上の災害補償を補完するための支出」である場合は必要経費とされることもありますが、死亡保険や家族補償を目的とするものは「生活保障目的」として経費算入が否認される場合もあります。

社労士としての実務経験上、特別加入の上乗せ保険を複数契約している方も多く見ますが、税務上の扱いを混同しないよう、保険の性質を明確にしておくことが肝心です。


5. 法人の場合の損金算入と源泉徴収の関係

法人が従業員の労災保険料を負担する場合は、全額が損金算入可能です。社員の給与から控除する必要もなく、源泉徴収の対象外です。特別加入者として役員や一人親方的ポジションの方が加入している場合も、法人が保険料を負担することは可能ですが、これは「役員に対する福利厚生費」として処理します。

このとき、役員全員が加入していない場合には「特定の者への経済的利益供与」として「役員賞与」とみなされるリスクが生じます。法人税法上の取扱いは慎重に行うべきで、顧問税理士と連携して処理方針を統一することが望ましいです。


6. 控除証明書と帳簿管理のポイント

税務処理の信頼性を高めるためには、労働保険事務組合から交付される「労働保険料領収書」や「特別加入証明書」を確実に保管しておくことが重要です。確定申告時や税務調査で求められる際、これらが提示できないと経費算入を否認される可能性もあります。

また、年度更新時に過年度分の精算が発生することも多いため、納付年度と会計年度の対応を整理しておくことが必要です。支払日基準で経費処理を行う場合でも、翌期に繰り越す費用との整合性に注意しましょう。


7. 社労士としてのコメント

建設業の労災保険は、税務処理の観点から見ても複雑な要素を多く含みます。特別加入制度の活用は安全管理の面で極めて有効ですが、税務上の処理が誤っていると「損金算入否認」や「役員賞与認定」といったリスクにつながることもあります。

私の顧問先でも、経理担当者が「労災保険料は全額経費」と思い込み、特別加入分や上乗せ保険まで一括計上してしまい、後から税理士との調整が必要になった事例がありました。社労士としては、保険制度の正確な理解と税務処理の整理を両立させるため、労働保険事務組合・税理士・経理部門の三者連携を強く推奨しています。


まとめ

労災保険料は原則として全額経費算入が可能ですが、特別加入や上乗せ補償などの扱いには注意が必要です。元請・下請間の負担関係や法人・個人の区分によっても処理が異なります。建設業では特に現場単位の契約関係が複雑なため、帳簿上の明確化と証憑管理を徹底することで、税務上のリスクを最小限に抑えることができます。


 

執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)

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