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近年、建設業界では労働災害防止や働き方改革の流れを背景に、厚生労働省による行政指導やガイドラインが相次いで発表されています。現場における安全衛生対策の強化、時間外労働の上限規制の適用、社会保険加入の徹底といった政策は、すべて「持続可能な建設業界」を実現するための重要な要素です。特に2024年度以降は、法改正に伴う実務対応が現場管理者・経営者の責任としてより明確に求められるようになりました。
建設業は、依然として労働災害の発生率が高い業種の一つです。厚労省は「第14次労働災害防止計画」(令和5年度~9年度)において、「墜落・転落」「はさまれ・巻き込まれ」「熱中症」「交通災害」の4項目を重点管理分野として位置づけています。
特に令和6年度からは、建設現場での「足場等の点検・記録義務」が一層厳格化され、元請事業者が下請を含む全作業員に対して安全衛生教育を実施する体制整備が求められています。労働安全衛生法第59条に基づく教育だけでなく、実地での指導・KY活動の記録化が重要です。
社会保険労務士として現場を見ていると、安全衛生教育が「形骸化」しているケースが少なくありません。形式的な朝礼だけでなく、危険ポイントを具体的に示し、作業内容ごとのリスクを理解させる工夫が必要です。
2024年4月に猶予が終了した「時間外労働の上限規制」は、建設業界にとって大きな転換点となりました。これまで「月100時間未満・年720時間以内」という上限が適用外だった建設業も、今後は他産業と同様に厳格な労働時間管理が義務化されています。
ただし、建設業については「災害復旧工事」など一定の例外規定が設けられており、業務の性質上、柔軟な運用が可能な範囲も残されています。しかし、厚労省は「例外の乱用」を厳しく指導しており、労働基準監督署の重点監査項目にも位置づけられています。
実務上のポイントは「工期設定の適正化」と「労働時間の客観的把握」です。元請・下請の関係においても、無理な納期設定が原因で過重労働が発生していないかを見直す必要があります。タイムカード、IC入退場記録、スマートフォンアプリなどによる客観的管理の導入が、今後の企業評価にも影響するでしょう。
厚労省・国交省・建設業団体は連携し、「社会保険未加入対策」を継続的に強化しています。平成29年以降、建設業許可の更新要件に「社会保険の適正加入」が明記されたことで、未加入のままでは事業継続が難しい時代となりました。
元請企業は下請業者に対しても、社会保険加入状況の確認を義務付けられており、実際に「社会保険未加入業者の排除」を進める企業も増えています。とくに一人親方の特別労災加入制度については、形式的な加入だけでは不十分で、継続的な保険料納付・更新手続きの確認までが求められるようになっています。
社労士として現場を支援する中で感じるのは、保険加入手続きが「担当者任せ」になっており、本人が内容を理解していないケースが多いことです。行政は今後、デジタル化によるデータ突合を進める方針を明確にしており、「加入しているつもり」が通用しない時代に入っています。
近年の厚労省の動向で注目すべきは、「建設DX推進」と安全衛生管理のデジタル化です。令和5年3月に公表された「建設業における安全衛生DX推進ガイドライン」では、AI・IoTを活用した危険予知、電子KY記録、作業員のバイタル管理などが推奨されています。
現場の実務においても、スマートデバイスでの「熱中症アラート」や「作業位置トラッキング」など、技術を用いた事故防止策が広がりつつあります。これらは単なる効率化の手段ではなく、「安全配慮義務」の実効性を高めるツールとして位置づけられています。
社労士としては、こうしたDX化の波に合わせ、就業規則や安全衛生管理体制の見直し支援を行うことが求められます。データ管理やプライバシー保護の観点からも、労務管理規程との整合性を確保する必要があるため、単なる導入支援ではなく「制度設計支援」が不可欠です。
厚労省通達(基発0325第3号)では、元請事業者の安全管理責任を明確化しています。特に「下請に対する安全衛生教育」「危険箇所の共有」「災害発生時の報告義務」については、法的責任の所在が問われるケースが増加しています。
また、2023年以降の労働安全衛生法改正により、「一人親方等に対する安全衛生配慮義務」も行政上の重点指導項目に含まれました。これにより、元請が「一人親方だから責任がない」とする主張は通用しなくなっています。
現場では、下請や一人親方を含めた「現場全体での安全文化形成」が重視されるようになっています。災害発生時の損害賠償や訴訟リスクを未然に防ぐためにも、契約書・安全衛生協定書の整備が重要です。
厚労省は、今後5年間で「建設業の労働災害を20%減少させる」ことを目標に掲げています。その実現には、法令遵守だけでなく、現場の安全意識と労務管理の両輪が欠かせません。
社労士として注目すべきは、今後の行政指導が「形式的な遵守」から「実質的な運用」へ移行している点です。たとえば、時間外労働管理や安全衛生教育の記録を“残す”だけでなく、“運用している証拠”が求められる傾向にあります。
建設業は人材不足と高齢化が進む中で、「安全・安心に働ける職場づくり」が経営課題の中心となっています。社労士としては、法改正やガイドラインを単なる情報提供にとどめず、「実務に落とし込む支援」を行うことが、今後ますます重要になるでしょう。
執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)
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